プロローグ

春――片田舎からやって来た葉月は“場違い”なほど格式ある峰桜女学園への入学初日、まさかの遅刻寸前。
彼女の前に現れたのは、自由奔放でどこか掴みどころのない、ヤンキースタイルのお嬢様――乃亜。

その出会いが、すべての始まりだった。

華やかで、どこか特別な予感のする学園生活、風変わりなお嬢様たち、“セプテット”と呼ばれる七人の特別な生徒たち。

戸惑いながらも前を向く葉月と、奔放に振る舞う乃亜。
対照的なふたりが、やがて“特別なお茶会”へと辿り着くとき――
学園の空気は、静かに変わり始める。

これは、何も持たない少女が“信頼”と“絆”という翼を手に入れて、
自分の歩幅で未来を目指していく――そんな始まりの物語。

第一章 — 新たなる翼

完璧であろうとすること。
誰よりも高く飛ぶために、誰にも頼らずに歩いてきた少女――有栖磨香津美。

特待生として入学した彼女の存在は、学園に静かなさざ波を起こす。
尊敬と距離の狭間で、クラスとの間に見えない壁が育っていく。

孤独は慣れていた。けれど、ある“出会い”が、香津美の世界にひびを入れる。
無遠慮に懐に入り込む同級生。再会した幼馴染。そして――どうしても越えられない、完璧な上級生。

プライドの奥で気づいていなかった想い。ほんの少しの勇気。

それは、努力だけでは届かなかった何かに、香津美が初めて手を伸ばす瞬間だった。

第二章 — 青空の先へ

誰に聴かせるでもなく、ただ鍵盤に触れているとき――司はひとりきりでも満たされていた。
そこに理由はなかった。ただ自然に指が動き、音が生まれるのが心地よかった。

けれど、学園の日々の中で、思いがけない出会いがあった。
ひとりは、まっすぐな熱で心を揺さぶり、
もうひとりは、澄んだ眼差しでその奥を映し出す。

二つの気配が交差するたび、司の旋律は少しずつ変わっていく。
それは、ただの音ではなく――まだ名のない何かを伝え始めていた。

音に導かれるように。
司はまだ知らない。
その響きが、自分を未来へと連れていくことを。

第三章 — 双つの風の行方

誰よりも自由に振る舞い、
誰よりも「自分らしく」あろうとした少女――乃亜。

けれど、その笑顔の裏には、
まだ消せぬ影と、言葉にできない迷いがあった。

入学式後に出会った、凪いだ瞳の上級生。
「正しさ」と「自分らしさ」がぶつかり合ったその時、
乃亜の胸に残されたのは、思いがけない痛みと、ともしびのような温もり。

過去に別れを告げる強さを得た時、
乃亜は初めて、自分の選んだ歩みを「誰かと並んで進む」ことを望む。

けれど、その選択は、
彼女自身の「笑顔」が試されることを意味していた。

第四章 — 継がれてゆく光

学園生活に少しずつ馴染み、憧れの上級生とのあいだにも信頼を築きつつあった葉月。
けれど、その歩みは思わぬ出来事によって揺らぎ始める。

「もう駄目かもしれない」――心を覆う影。
それは、自分の未熟さゆえか、それとも環境の厳しさか。
積み上げてきた努力と関係が、一瞬にして崩れ去る危機に晒される。

それでも、立ち止まることはできない。
学び直し、悩み、迷いながら、葉月は答えを求めて走り出す。
――たとえ、学園の中心に飛び込むことになろうとも。

彼女の選択は、ただの少女の成長にとどまらず、やがて学園全体を揺るがす小さな波紋となっていく。